血糖値の正常な値とは?

血糖値の正常な値とは?

監修者
プロフィール

栗原毅先生(くりはら・たけし)
栗原クリニック東京・日本橋院長
1978年北里大学医学部卒業。医学博士。肝臓専門医。東京女子医科大学教授、慶應義塾大学教授を歴任し、2008年に消化器病、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病の予防と治療を目的とした「栗原クリニック東京・日本橋」を開院。著書に『名医が教える「本当に正しい糖尿病の治し方」』(エクスナレッジ)、『図解ですぐわかる 自力でラクラク下がる! 血糖値』(河出書房新社)、『ズボラでも中性脂肪・コレステロールは下げられる!』(宝島社)、『血液サラサラで美人になる!』(マガジンハウス)など多数。

日本人の糖尿病人口は年々増加していますが、健診などで「血糖値が高め」と指摘されても放置している人が多いのが現状です。糖尿病は、ひとたび発症すれば生涯つき合わなければならない病気といわれます。糖尿病予防の重要なキーワードである「血糖値」について知り、適切な対策につなげていきましょう。

1.そもそも血糖値とは何?

「血糖値」は血中のブドウ糖の量

血糖値とは、血液中に存在するブドウ糖の量のことをいいます。単位は「mg/dL(ミリグラム・パー・デシリットル)」で表し、例えば「110mg/dL」なら1dLの血液の中に110mgのブドウ糖が含まれていることを示します。

ブドウ糖は、脳や筋肉、内臓などを働かせるために欠かせない大切な栄養素です。食事で糖質(※)を摂ると、体内の消化酵素によって細かく分解され、最終的にブドウ糖となって肝臓に送り込まれます。そして肝臓から全身の血管に流れ、各器官のエネルギー源として使われます。

※糖質…3大栄養素の1つである「炭水化物」のうち食物繊維 を除いたもの。砂糖や果物のように甘いものだけでなく、米や小麦などの穀類や、いも類、豆類、根菜類などに多く含まれる。

高血糖が続くと糖尿病を引き起こす

血液中のブドウ糖の量は食事をすると増え、血糖値が上昇します。この時に活躍するのが、すい臓から分泌される「インスリン」というホルモンです。インスリンは、ブドウ糖を筋肉や脳に送り込んで利用したり、使われずに余ったブドウ糖を肝臓や筋肉、脂肪細胞に取り込んで貯蔵したりすることで、血糖値を下げる働きをします。

そのため食後に一時的に血糖値が高くなっても、健康な人では1~2時間後くらいをピークに徐々に下がり、食事を摂る前の血糖値に戻っていきます。インスリンは、このように血糖値を一定の幅に維持する役割を担っています。

ところが糖質を摂り過ぎたり、何らかの原因でインスリンがうまく働かなくなったりすると、処理しきれなかったブドウ糖が肝臓からあふれて血液中に漏れ出してしまいます。こうして血液中に必要以上にブドウ糖が存在する状態が「高血糖」です。高血糖が続くと、やがて糖尿病を発症することになります。

2.血糖値の正常値と糖尿病の診断基準とは?「正常高値」からのケアが大切

糖尿病は血糖値とHbA1cから診断

それでは、正常な血糖値とはどのくらいで、数値がいくらになると糖尿病と診断されるのでしょうか? 現在、血糖値と共に糖尿病の診断で重要視されているものに、「HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)」という指標があります。

診断基準では、「血糖値」(①空腹時血糖値 ②食後2時間血糖値 ➂随時血糖値)と「HbA1c」のうち、➀~➂のいずれかと「HbA1c」が高値の場合に糖尿病と診断されます。それぞれの値の意味と正常値を知っておきましょう。

「血糖値」には3種類ある

➀空腹時血糖値…10時間 以上絶食した状態で測定した血糖値。自治体や会社などで行われる一般的な健診の項目に含まれています。多くの場合、空腹時血糖値とHbA1cの2つが基準値を超えた場合に糖尿病と診断されます。
・正常値…99mg/dL以下 ・正常高値…100~109mg/dL ・境界型糖尿病…110~125mg/dL ・糖尿病…126mg以上

②食後2時間血糖値…食事を摂った2時間後に測定した血糖値。医療機関では75gのブドウ糖を飲んでから30分後、 1時間、2時間後の血糖値を測定する「75g経口負荷試験(ブドウ糖負荷試験)」が行われます。食後の血糖値が異常に高くなる「食後高血糖」は糖尿病のハイリスクとされ、空腹時血糖値だけでは見逃されがちな「隠れ糖尿病」を見つける手がかりとなります。
・正常値…140 mg /dL未満 ・境界値…140~200mg/dL未満 ・糖尿病…200mg/dL以上

➂随時血糖値…時間や絶食の条件なしに測定した血糖値。直前に食事をした場合や食事の内容によっては数値が高く出ることがあります。
・正常値…140 mg /dL未満 ・境界値…140~200mg/dL未満 ・糖尿病…200mg/dL以上

過去1~2か月の血糖の状態が分かる「HbA1c (NGSP)」

血液中のブドウ糖は、赤血球のヘモグロビンと結びつく性質があります。血液中の何%の赤血球がブドウ糖と結びついているかを示すのが「HbA1c」で、血糖値が高いほどたくさんのヘモグロビンが結合するため、過去1~2か月の血糖の状態が反映されます。血糖値が検査当日の血液の状態しか分からないのに対し、HbA1cは普段から血糖値が高いかどうかが分かるのが特徴で、例えるなら血糖値は「今日の気温」、HbA1cは「平均気温」といえます。空腹時血糖値と同様、一般的な健診の項目に含まれています。
・正常値…4.3~5.5 ・正常高値…5.6~5.9 ・境界型…6.0~6.4 ・糖尿病型…6.5~

「正常高値」になったらケアを!「境界型」はすでに糖尿病予備軍です

血糖値にもHbA1cにも「境界型」、「正常高値」という判定があります。境界型とは、まだ糖尿病とはいえないけれど、限りなく糖尿病に近いグレーゾーンで、「糖尿病予備群」に当たります。正常高値は読んで字のごとく「正常範囲内だけれど、高め」の状態で、放置すれば境界型から糖尿病型へと進行するリスクが高いことから、注意を喚起するために設けられた基準です。

境界型や正常高値だと、「まだ糖尿病ではないから大丈夫」と安心する人がいますが、これは大きな間違いです。高血糖が続くことで起こる動脈硬化などの血管の障害は、「血糖値が高め」の段階で、すでに進行していることがわかっています。「高め」と指摘されたタイミングでケアを始めることが、糖尿病を予防していく上での大切なポイントといえます。

3.血糖値が正常でないとどうなる? 糖尿病について知ろう

糖尿病は、初期には「無症状」で進行してしまう

糖尿病は、ある日突然発症する病気ではありません。多くの場合、血糖値が高くなってから10~20年放置しているうちに徐々に悪化していきます。健診などで「血糖値高め」と指摘されても放置してしまう人が少なくないのは、糖尿病が初期には「無症状」であるためです。中には「のどの渇き」「尿量の増加」「倦怠感」「体重減少」といった症状が現われることもありますが、こうした症状が現われた時には、糖尿病がすでにかなり進行してしまっているケースがほとんどです。 無症状のうちに水面下で進行するため、糖尿病は「サイレントキラー(静かな殺し屋)」と呼ばれることもあります。

糖尿病は動脈硬化を進行させることも

高血糖状態が続くと、太い血管の障害である「動脈硬化」も進みやすくなります。動脈硬化は、動脈が硬くなり弾力性が失われた状態です。硬くもろくなった血管は傷つきやすく、傷ついた部分にコレステロールがたまって、血管の内腔が狭くなります。その結果として血液が流れにくくなり、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞、脳出血など命にかかわる病気が起きるリスクが高まってしまいます。

糖尿病ではこのほかにも、肺炎などの感染症や歯周病、皮膚炎なども起こりやすくなります。さらに最近の研究では、がんや認知症の発症とも関連があることがわかってきました。

4.血糖値の正常値をチェックして、対策を始めよう

糖尿病の予防や治療の目的は、こうした合併症をいかに防いでいくかにあります。血糖値は、そのための重要な手がかりとなるものです。初期には症状が現われにくいからこそ、健診などで定期的に血糖値をチェックし、数値に問題があれば早めに専門の医療機関の受診や生活改善などの対策をとるようにしましょう。

■糖尿病の合併症予防のポイント

血糖値を適正にコントロールする

毎日の食事と運動が大切です。現在、合併症のある人も、血糖値を適正に保つことで合併症の進行や他の合併症を起こすのを防ぐことができます。

血圧・コレステロール値を適正にコントロールする

「糖尿病」「高血圧」「脂質異常症」はそれぞれ動脈硬化のリスク要因ですが、2つ3つと要因が重なるとさらに危険性が増し、動脈硬化が進行しやすくなります。

体重を適正に保つ

過食による体重増加は、糖尿病の発症と関連性があります。肥満の人が減量するとインスリンの働きがよくなり、血糖値が下がりやすくなります。

禁煙する

たばこを吸うとインスリンの働きなどに影響し、糖尿病にかかりやすくなることがわかっています。また、糖尿病の人がたばこを吸い続けると、脳梗塞や心筋梗塞、糖尿病性腎症などの合併症のリスクが高まります。

まとめ

血糖値が高い状態が続くと全身の血管にダメージが及び、ひとたび糖尿病を発症すれば、神経症、網膜症、腎症など様々な合併症を引き起こすことに。血糖値を適正にコントロールすることは、健康的な生活を送っていく上の要ともいえます。現状では糖尿病と診断されていない人も「血糖値が高め」と言われたら放置しないことが大切です。