中性脂肪とは? 健康に及ぼすリスクと対処法を解説

中性脂肪とは? 健康に及ぼすリスクと対処法を解説

監修者
プロフィール

栗原毅先生(くりはら・たけし)
栗原クリニック東京・日本橋院長
1978年北里大学医学部卒業。医学博士。肝臓専門医。東京女子医科大学教授、慶應義塾大学教授を歴任し、2008年に消化器病、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病の予防と治療を目的とした「栗原クリニック東京・日本橋」を開院。著書に『名医が教える「本当に正しい糖尿病の治し方」』(エクスナレッジ)、『図解ですぐわかる 自力でラクラク下がる! 血糖値』(河出書房新社)、『ズボラでも中性脂肪・コレステロールは下げられる!』(宝島社)、『血液サラサラで美人になる!』(マガジンハウス)など多数。

何かと悪者扱いされることが多い中性脂肪。本来は、人間が活動するための大切なエネルギー源の1つですが、中性脂肪が過剰になると、動脈硬化の進行など様々な悪影響を及ぼします。中性脂肪について正しい知識を得て、増やし過ぎない対処法を身につけておきましょう。

1.中性脂肪とは?

中性脂肪とは、血液の中に溶け込んだ脂肪のことで、「血中脂質」と呼ばれるものの一種です。血中脂質には中性脂肪の他にも「コレステロール」「リン脂質」「脂肪酸」などがあり、いずれも体にとって大切な役割があります

中性脂肪の役割は、身体活動のエネルギー源になること。体を動かしたり体温を保ったりする、生命維持には必要不可欠なものです。しかし、血中に中性脂肪が増え過ぎると、消費されずに余った中性脂肪が体脂肪となって内臓や皮下に蓄積されていきます。それだけでなく、血液中の中性脂肪の濃度が高まると、血液がドロドロした状態になり、スムーズに流れなくなってしまいます。このように、体内で様々な問題を引き起こしてしまうのです。

2.中性脂肪はなぜ増える?

中性脂肪が増える原因は主に「食べ過ぎ・飲み過ぎ」と「運動不足」です。特に、ご飯やパン、麺類などの炭水化物、お酒やお菓子、甘い飲み物などの過剰摂取が原因となります。
中性脂肪は「脂肪」と名がつくことから、肉や脂っこい食べ物など「脂質」を多く摂ると増えると思われがちですが、実は脂質よりも炭水化物などに含まれる「糖質」(※)の摂り過ぎのほうが大きな原因となることを知っておきましょう。食事で糖質を摂って血糖値が上がると、血糖値を正常に保つために、すい臓がインスリンというホルモンを分泌して血糖を肝臓に送ります。肝臓は余った糖を元に、中性脂肪を合成するのです。

※糖質…3大栄養素の1つである「炭水化物」のうち食物繊維を除いたもの。砂糖や果物のように甘いものだけでなく、米や小麦などの穀類や、いも類、豆類、根菜類などに多く含まれる。

3.中性脂肪の増加が、「生活習慣病」を招く原因に

体内で余った中性脂肪は、皮下脂肪や内臓脂肪として蓄えられます。脂肪はただ蓄積されるだけだと思われがちですが、実は内臓の周囲につく内臓脂肪細胞には、様々な生理活性物質(ホルモンに似た物質)を分泌する働きがあり、内臓脂肪がたまり過ぎると、生活習慣病を招く物質の分泌が増えてしまいます。こうして「中性脂肪が増える→内臓脂肪型肥満になる→生活習慣病になる」という連鎖が起きやすくなってしまうのです。

代表的な生活習慣病には「高血圧症」「糖尿病(2型)」「脂質異常症」などがあります。

高血圧症

高血圧症は、血圧が高い状態が慢性的に続く病気です。高血圧症になると血管に高い圧力が常にかかるため、血管壁が傷ついたり、血管が硬くなったり、ボロボロになって動脈硬化を起こしやすくなります。中性脂肪が多いドロドロの血液と高血圧症が重なることで、動脈硬化はさらに進んでしまいます。

糖尿病(2型)

糖尿病は血液中のブドウ糖が増え過ぎる病気です。中性脂肪が高い状態が続くと、インスリンの働きが悪くなって血糖値が下がりにくくなり、糖尿病のリスクが高まります。

脂質異常症

脂質異常症は、脂質の代謝が正常に行われず、血液中に中性脂肪や悪玉(LDL)コレステロールが多過ぎる、または善玉(HDL)コレステロールが少な過ぎるなどの状態を示す病気のことです。中性脂肪は善玉(HDL)コレステロールを減らし、「超悪玉コレステロール」とも呼ばれる、小型化した悪玉(LDL)コレステロールを生み出します。小型LDLコレステロールは血管の内側の壁に入り込んで、動脈硬化を進行させやすくなります。

4.生活習慣病から、やがて「動脈硬化」に

動脈硬化とは、心臓から送り出された血液を運ぶ動脈が硬くなる病気です。血管の内側の壁にコレステロールがたまって血管が狭くなり、同時に血管が硬くもろくなることで、血栓ができたり、血管が破れやすくなったりします。進行しても自覚症状がないのが怖いところで、日本人の死亡原因の上位を占める、心筋梗塞や脳梗塞など突然起こる重大な病気の原因になります。

生活習慣病は動脈硬化を引き起こす危険因子です。生活習慣病の基準に満たない中性脂肪、血糖値、血圧が少し高いレベルであっても、危険因子が複数重なることで動脈硬化が急速に進みやすくなります。そのスタートに中性脂肪の増加があるという意識をもち、中性脂肪の値が高めの人は、生活習慣の見直しを始めましょう。

5.中性脂肪と脂肪肝の関係

脂肪肝とは、肝臓の細胞が中性脂肪をたっぷりとため込み、白く膨張した状態をいいます。肝臓は糖から中性脂肪を合成して貯蔵しますが、貯蔵量には限界があり、それを超えると肝臓は中性脂肪を血液中に放出します。そのため、実は中性脂肪の高さが血液検査の数値となって現れる頃には、肝臓は既に「脂肪肝」の状態であることが多いのです。

脂肪肝は軽度のうちは症状がないため、気づかない人がほとんどですが、実は国民の4人に1人が脂肪肝といわれています。脂肪肝の人は、狭心症や心筋梗塞の発症率が通常の2倍以上高いことが分かっています。中性脂肪の数値と共に注意することが大切です。

6.中性脂肪をケアするには

食事

中性脂肪を増やす原因の多くは、脂質よりも糖質です。そのため、中性脂肪を減らすには、カロリー計算をして全体のカロリーを制限していくよりも、いかに「糖質の摂取量を抑えるか」がポイントとなります。このポイントさえ押さえれば、中性脂肪のケアはそれほど難しくはありません。食べ物や食べ方を少し変えれば、中性脂肪は比較的簡単に減らすことができます。

おすすめは糖質を「ちょいオフ」する食事法です。例えば、「一回り小さなお茶碗に替えてご飯の量を少し減らす」「外食では小サイズのライスを選ぶ」「多ければ残す」など、今食べている量から、1割ほど減らしてみましょう。これだけでも糖質の摂取が減り、中性脂肪を減らすことにつながります。

ご飯やパン、麺など主食を減らしても、肉や魚などタンパク質をしっかり摂れば、食事の満足度も維持できます。無理なく糖質が制限でき、続けやすい点もメリットです。

もちろん、脂質を全く気にしなくてよいということではありません。脂っこい物の摂り過ぎは食後の中性脂肪を上昇させるので、肉料理などは調理法に注意し、脂質を控えるようにしましょう。

また、糖質と脂質の吸収を抑えるには、食物繊維を多く摂るのがおすすめです。食後の血糖値や中性脂肪値の上昇を穏やかにしてくれるので、積極的に摂りましょう。

運動

中性脂肪を減らすためには、運動でエネルギーとして消費することも大切です。いくら運動がいいと分かっていても、なかなか実行できないのも、また運動です。ここでは、続けやすく、中性脂肪を減らすのに効果的な3種類の運動をご紹介します。

有酸素運動

体に酸素を取り入れながら行う運動で、体内の脂肪を燃焼させる効果があります。代表的な有酸素運動に、ウォーキング、スロージョギング、サイクリング、水中歩行などがあります。中でもウォーキングは、手軽に始められるのでおすすめです。特に、食後30分の間に散歩をすれば、中性脂肪になる余分な糖を減らすことができます。食べた後は、なるべく歩くようにするなど、ライフスタイルを工夫してみましょう。

筋肉運動

脂肪を燃焼させるためには、筋肉の量を増やすことが大切です。筋肉運動にはダンベル体操や腹筋・背筋運動などがあります。わずかなスペースで、思い立った時にできるスクワットは、太ももやお尻、ふくらはぎなど大きな筋肉を動かせるので、多くのエネルギーを消費できます。

ストレッチ

血液の循環を促すための運動です。ストレッチは血行をよくして体温を上げ、全身の代謝をよくします。運動の前後には、柔軟体操やストレッチを取り入れましょう。運動前はけがの防止、運動後は筋肉をいたわることにつながります。

まとめ

増え過ぎると健康に様々な悪影響がある中性脂肪は、食事や運動を少し意識するだけで、比較的簡単に落とすことができます。きついカロリー制限や激しい運動は必要ありません。まずは糖質を「ちょいオフ」する食事法から、始めてみてはいかがでしょうか。