国民の3人に1人が高血圧!? 血圧上昇の原因を詳しく解説

高血圧

日本では、今や国民の3人に1人が高血圧だと推定されています。若い頃はむしろ血圧が低かったという人でも、年齢を重ねるにつれ、血圧が気になり始めることは多いものです。この記事では、高血圧になる原因や高血圧が体に及ぼす影響を解説します。

監修者
プロフィール

市原 淳弘先生(いちはら・あつひろ)
東京女子医科大学 高血圧・内分泌内科 教授
1986年慶應義塾大学医学部卒業。日本高血圧学会高血圧専門医、日本内分泌学会内分泌代謝科専門医。現在、東京女子医科大学 液性病態制御内科学教授・基幹分野長、日本高血圧学会理事、日本妊娠高血圧学会理事長なども務める。主な著書に『「治せる高血圧」を見逃すな!カギは、ホルモンだった!』(学研プラス)、『食べ方、座り方、眠り方で下がる!血圧リセット術』(世界文化社)などがある。

1.高血圧は「国民病」!? 高血圧になる前に知っておきたい血圧と血管の関係

日本の高血圧人口は現在、潜在的患者数を含めると4300万人(※)と推定されています。その割合は実に、国民の3人に1人に当たります。高血圧は日本の国民病といわれるほど身近な病気です。
※日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」

心臓が24時間365日、全身に血液を送り続けるのと同様に、その血液を全身に循環させている血管も年中無休で働いています。血管は常に血液からの圧力を受け続けており、加齢と共に徐々に傷んで、硬くなっていくのは当然のこと。「人は血管から老いる」ともいわれますが、血管が硬くなるスピードには個人差があります。実はそのスピードを加速させる一番の危険因子が高血圧なのです。
血管が老化して硬くなると、心臓は強い力で血液を送り出そうとして血圧が上がります。そして血管に過度な圧力がかかると血管の硬化はさらに進み、血管の老化がさらに加速していく…という悪循環を引き起こしてしまうのです。

動脈硬化が進行すると、脳梗塞や心筋梗塞など様々な病気を引き起こします。高血圧をケアして、血管の老化を遅らせることは、自分の健康を守ることにつながります。

2.高血圧になるとなぜいけないの? 血管の硬化で体にこんな変化が!

高血圧は、様々な病気を引き起こす危険因子ですが、厄介なのは、自覚症状がほとんどない点です。血圧の数値だけではなかなかイメージしにくいですが、血圧が高い人の体は、あちこちで次のような変化が起きています。

■血管
 血圧が高く、血管に常に高い圧力がかかり続けると、傷ついた血管は徐々に硬くなります。いわゆる「動脈硬化」の状態で、高血圧の人は血圧が正常な人と比べて、血管の硬さが1.2倍になるといわれています。

 動脈硬化が進むと、手足の毛細血管に血液が十分に行き届かなくなり、毛細血管の中に血液が流れない“抜け殻状態”が生じます。人の毛細血管の表面積を合計すると、テニスコート5面分に相当する1000㎡ほどになります。しかし、血管の硬さが1.2倍になると、テニスコート5面分あった毛細血管のうち、1面分が丸ごと消失してしまう計算になるのです。

■心臓
 私たちの心臓は、全身に血液を送るために1分間に約60~70回拍動しています。1日に換算すると拍動数は約10万回、毎日休むことなく動き続けています。

高血圧になると1日の拍動数はさらに増え、約13万回に達します。血管が硬くなるため血液が送りにくくなり、正常な血圧の人と同じ量の血液を送るには、心臓をより多く動かさなければならないからです。心拍数が増えれば増えるほど、心臓病や心臓病による血栓症が起こりやすくなります。正常な心拍数の人に比べ、心筋梗塞や脳梗塞などになるリスクは2.67倍といわれています。

■腎臓
 血圧が高いと、腎臓へ流れる血液量が減少します。尿は腎臓に送り込まれた血液がろ過されて作られますが、高血圧は尿のろ過装置である「糸球体(しきゅうたい)」を減少させます。糸球体とは、細い血管のかたまりで、約200万個ある糸球体は、高血圧による動脈硬化によって約11万個も減少してしまいます。

 糸球体の減少は尿の血液ろ過機能の悪化を招き、排出されずに体内に蓄積された老廃物が、様々な病気を引き起こします。

■骨
 高血圧の影響は骨にも及びます。骨の中にある血管が硬くなると、骨に栄養がいきわたらなくなります。そうなると骨自体がもろくなって骨折しやすくなり、骨粗しょう症の発症リスクも上がります。昨年より身長が2cm以上縮んだ、25歳の時と比べて4cm以上低くなった人は要注意です。4cm以上低くなると、骨折リスクは約20倍に跳ね上がります。

3.高血圧になる原因は?

高血圧は医学的に大きく分けて、他の病気や薬の副作用などで起きる原因が明らかな「二次性高血圧」と、生活習慣や遺伝因子などが複合して起きると考えられる、原因が1つに特定できない、あるいははっきりしない「本態性高血圧」の2つに分かれます。

全体の10~20%を占める「二次性高血圧」は、ホルモン異常などの病気が引き金となって起きる高血圧です。比較的若い人に多く、35歳以下で発症する高血圧の約25%が二次性高血圧だといわれています。高血圧の原因が明らかであり、適切な治療によって血圧を正常化できる可能性があります。

一方、高血圧の患者全体の80~90%を占めるのが「本態性高血圧」です。本態性高血圧は遺伝性の病気ではありません。高血圧になりやすい遺伝因子があることが分かっていますが、遺伝因子があれば全ての人が高血圧になるというわけではありません。

本態性高血圧は、遺伝以外にも様々な要因が絡み合って起きるとされています。例えば、加齢や運動不足、喫煙、過度な飲酒といったよくない生活習慣や、ストレスや肥満など、様々な要因が重なることで発症します。

それゆえ、本態性高血圧は生活習慣を見直すことで改善が期待できます。ここでは、本態性高血圧を引き起こす主な原因について詳しく解説します。

<本態性高血圧の主な原因>

■加齢

若い頃はしなやかで柔軟性があった血管も、年を重ねるにつれて誰でも硬くなります。血管が硬くなると血圧が上がり、血圧が上がるとさらに血管は硬くなるという悪循環に陥ります。

一般的に女性は男性より血圧が低めですが、更年期以降、急に高血圧になる人が増えます。これまではむしろ低血圧だったのに、更年期以降に生まれて初めて血圧が高くなり、驚く人も多いでしょう。更年期になると、血管をしなやかに保ち、拡張させる役割を果たしていた女性ホルモンのエストロゲンが急減するため、高血圧のリスクが高くなるのです。

女性の高血圧有病率(高血圧である人の割合)は30歳までは全体の数%にすぎませんが、40代以降に増え始め、50~60代では男女の差はほぼなくなります。

加齢による血管の老化は避けられませんが、性別に関係なく、血管の老化のスピードを緩やかにする血圧ケアが重要になります。

■生活習慣

生活習慣の乱れは、高血圧のリスクを高めます。次のようなNG習慣があると、高血圧になりやすいため、対策が必要です。まずは自分の生活習慣について、セルフチェックをしてみましょう。

□ストレスが多い
□運動をほとんどしない
□味の濃いものが好き
□生野菜や果物はほとんど食べない
□満腹になるまで食べる
□喫煙の習慣がある
□飲酒の習慣がある
□睡眠不足(睡眠時無呼吸症候群なども含めて)
□ジュースやカフェイン入りの飲料をよく飲む
□以前より太った、体重変動が激しい
□歯周病がある
□健康診断でコレステロールや血糖値について注意を受けている

チェックの数が多いほど、血管の老化が進んでいる可能性があります。また、高血圧以外に「脂質異常症」「高血糖(糖尿病・食後高血糖)」と指摘されている人は、動脈硬化をさらに進行させてしまう危険性もあります。生活習慣を改善し、血管の老化スピードを穏やかにする対策を始めましょう。

まとめ

日本人にとって、国民病ともいえる高血圧。加齢による血管の老化はある程度避けられませんが、高血圧の8~9割は、生活習慣の改善で老化のスピードを遅らせることができます。高血圧の原因に応じた対策を講じることで、血管の状態の改善も期待できます。気づいた時から、血管をいたわるライフスタイルに切り替えていきましょう。