そもそも血圧とは?  正常値を知り、早めの対策を

血圧とは

健康診断などで「血圧が高め」だと指摘されても、ほとんど自覚症状はないため、気楽に考えてしまってはいませんか? 今回は、そもそも血圧とは何なのか、その正常値は? などの血圧の基本から、年齢と共に血圧が高くなる理由も解説します。

監修者
プロフィール

市原 淳弘先生(いちはら・あつひろ)
東京女子医科大学 高血圧・内分泌内科 教授
1986年慶應義塾大学医学部卒業。日本高血圧学会高血圧専門医、日本内分泌学会内分泌代謝科専門医。現在、東京女子医科大学 液性病態制御内科学教授・基幹分野長、日本高血圧学会理事、日本妊娠高血圧学会理事長なども務める。主な著書に『「治せる高血圧」を見逃すな!カギは、ホルモンだった!』(学研プラス)、『食べ方、座り方、眠り方で下がる!血圧リセット術』(世界文化社)などがある。

1.血圧の正常値を知る前の基本① そもそも「血圧」とは?

 血圧とは、心臓から送り出される血液が、血管の壁を押す圧力のことです。私たちの心臓は、縮んだり広がったりするポンプ機能によって血液を全身の血管へ押し出し、血液を全身に循環させています。つまり、血圧がなければ血液は全身を巡ることができず、人間は生きていくことはできません。

2.血圧の正常値を知る前の基本②  「上の血圧」「下の血圧」とは?

血圧には「上の血圧」と「下の血圧」があります。それぞれの意味を理解しておきましょう。

■上の血圧=収縮期血圧

「上の血圧」とは心臓のポンプ機能(拍動)のうち、心臓が縮んで、血液を全身に送り出している時の値で、「収縮期血圧」とも呼ばれます。心臓から送り出された血液は、心臓に直結した動脈に一気に流れ込みます。血管には最も強い圧力がかかり、血圧は最大の数値を示します。

■下の血圧=拡張期血圧

血圧のイメージ
「下の血圧」とは、心臓が血液を送り出した後、全身から戻ってきた血液を貯めて心臓が膨らんでいる時に血管にかかる圧力の値で、「拡張期血圧」ともいいます。

 血圧は目に見えず、数値だけで示されるためはイメージが湧きにくいですが、噴水の水圧に置き換えてみると分かりやすいでしょう。「上の血圧×13.6」で、水に換算した時の水圧値を求めることができます。例えば、正常値の血圧の中でも高値とされる120mmHgでは、噴水が吹き上がる高さは約1m63cmです。これが、高血圧の中でもハイリスクとされる180mmHgになると、その約1.5倍に相当する 2m45cmに達するほどの水を押し上げる圧力が、血管の壁にかかっていることになります。

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 高血圧の人とそうでない人とでは、血管の壁にかかる圧力にこれほど大きな違いがあるのです。血管の壁には本来、弾力性がありますが、血圧の高い状態が長く続くと、血管の壁が常に張りつめて傷つき、次第に厚く、硬くなっていきます。これがいわゆる「動脈硬化」で、脳梗塞や心筋梗塞をはじめとした様々な病気の原因になります。

3.血圧の正常値を知る前の基本③ 「診察室血圧」「家庭血圧」とは?

 血圧は季節や温度、喜怒哀楽、行動など、様々な条件で変動します。例えば、「病院の診察室で血圧を測ると、いつもより高くなりがち」という人は少なくありません。医師や看護師の前で緊張して、血圧が上がっている可能性があります。

 これは「診察室血圧」と呼ばれるもので、文字通り「病院の診察室で測定した血圧」のことです。これに対し、家庭で測る血圧を「家庭血圧」と呼びます。家庭血圧と診察室血圧の測定結果に誤差が生じる場合、家庭血圧が優先されます。

4.血圧の正常値を知ろう!  血圧値の7分類とは

 日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2019」では、診察室での上の血圧(収縮期血圧)が140mmHg以上、または下の血圧(拡張期血圧)が90mmHg以上の場合を高血圧と診断します。家庭血圧の場合は、上の血圧が135mmHg、下の血圧が85mmHgを超えると高血圧と診断されます。血圧値は以下の7つに分類されます。

■血圧値の7分類

※家庭血圧の場合は全てマイナス5mmHgで評価します。

① 正常血圧(安全ゾーン)
上の血圧が120mmHg未満かつ 、下の血圧が80mmHg未満は正常血圧です。循環器系の病気を起こすリスクが低い理想的な血圧として、正常血圧の中でも「至適(してき)血圧」と呼ばれます。血管に弾力性があり、血液が滞りなく流れている状態です。

➁ 正常高値血圧(ノーマルゾーン)
上の血圧が120~129mmHgかつ、下の血圧が80mmHg以下は正常血圧の範囲内ではありますが、動脈硬化などのリスクが上がってくるゾーンです。上の血圧がこの範囲に入ったら、生活習慣の見直しを意識しましょう。

③ 高値血圧(イエローゾーン)
 高血圧とは診断されませんが、上の血圧が130~139mmHgかつ、または下の血圧が80~89mmHgの場合は「血圧が高めで血圧ケアが必要」だと認識しましょう。健康診断などで、イエローゾーンの値になると、医師から生活習慣の改善が促されます。

④ Ⅰ度高血圧(レッドゾーン)
上の血圧または下の血圧のどちらか一方、または両方が140/90mmHg以上の人は「治療が必要な高血圧」です。上の血圧が140~159mmHgかつ、または下の血圧が90~99mmHgの場合はレッドゾーンの中でも、Ⅰ度高血圧に分類されます。

➄ Ⅱ度高血圧(レッドゾーン)
上の血圧が160~179mmHgかつ、または下の血圧が100~109mmHgは、レッドゾーンの中でも、より深刻なⅡ度高血圧に分類されます。重篤な病気を招くリスクが高まっている状態です。

⑥ Ⅲ度高血圧(ドクターゾーン)
上の血圧が180mmHg以上かつ、または 下の血圧が110mmHg以上の人は、一刻も早く医療機関を受診して治療を始める必要があります。何も対策を取らなければ、心筋梗塞や脳梗塞などをいつ発症してもおかしくないほどハイリスクな状態です。

⑦ (孤立性)収縮期高血圧
高齢者に多い傾向として、上の血圧が140mmHg以上なのに下の血圧が90mmHg未満の場合があります。これを「(孤立性)収縮期高血圧」といい、血管が硬くなっているために下の血圧が下がっていると考えられ、治療が必要です。

※ 低血圧ゾーン
なお、血圧は低ければ低いほどよいというわけではありません。上の血圧が90mmHg未満は低血圧で、全身に酸素や栄養が巡りにくくなっている状態です。脳貧血や体調不良を起こしやすいため、適度な血圧をキープして、体調維持を目指しましょう。

5.年齢と共に血圧対策が必要な理由

加齢と共に血圧が上がりやすくなる大きな理由の1つが「血管の老化」です。目や髪などと同様に、血管も加齢によって老化します。

24時間休みなく血圧にさらされ続けてきた血管は、徐々にしなやかさを失い、硬くなっていきます。柔軟性が低下して伸び縮みしにくくなった血管は、血流量が増えた時に血管を広げて上手に圧力を逃がすことができず、上の血圧が自然に上がりやすくなります。

一方で、血管内の血流量が少なくなる下の血圧の時には、縮んで元に戻ることができにくくなるため、結果的に血管の内圧が下がって、下の血圧は下がっていきます。

上の血圧と下の血圧の差を「脈圧」といいますが、上の血圧が高いのに、下の血圧が低くなって脈圧の数値が大きくなってきたら、血管が柔軟性を失い、老化が始まったサインだと知っておきましょう。

また、女性は更年期を境に、高血圧になる人の割合が急激に増えていきます。これは女性ホルモンのエストロゲンの分泌が急激に減少するためです。

エストロゲンには血管の収縮や老化を防ぎ、血圧を下げる働きがあります。閉経後は、これまで血管を守ってくれていたエストロゲンが急激に減るため、女性も高血圧になりやすくなります。一般に、女性は男性よりも血圧が低めで、高血圧の人の割合が低い傾向にありますが、更年期以降は女性もリスクが高くなることを知っておきましょう。

他にも、中高年で増えてくる「内臓脂肪型肥満」も高血圧の一因となります。内臓脂肪自体が、血圧を上げる生理活性物質(ホルモンに類似した物質)を産生するためです。

このように、加齢と共に血圧対策が必要になっていくというわけです。

まとめ

まずは血圧とは何か、正常値と自分の血圧の意味を正しく知ることが、血圧対策の第一歩です。血圧は年齢と共に自然と上がっていくものですが、血圧の高い状態を決して放置せず、早めの「血圧ケア」を心がけましょう。